《ビジュアル・ノベル》 第1話 世田谷ビューティ 新町夏子、婚活、始めます! 《発進!》

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 東京都世田谷区──三軒茶屋

 その中核地区に建つ――外壁=薄茶色の商用タワービル=キャロットタワー

 その26階フロアに美人婚活スクール株式会社 世田谷本社オフィスがある。

 名称から簡単に想像がつく通り、まさに『美人専門の婚活スクール』だ。

 入会対象者は、当然――衆目一致の最高級美女ということになる。

 それなら、まず何ら迷うはずなどないはずなのだが――自他共に認める肉体派美人女優――新町夏子は、ここ三軒茶屋に着いてから、既に二時間近くも入会を迷っていた。

 いつもなら、現住所の二子玉川ライズ タワー&レジデンス イースト棟の地下 駐車場からお気に入りのオレンジのランボルギーニを駆ってくるところだが、わざわざ田園都市線で来たのが、そのきりのない逡巡の証拠だ。

 どこにでも転がっているような並みの女なら、"20代独身婚活"など取るに足らない事実かもしれないが、ファンクラブ会員数5000人という数は、伊達ではない。

 二年も使い倒した体臭付きの中古のハイヒールすら、熱烈男性ファンに五万で売りとばした女なのだ。

 そんな誇り高い美女であり、女優業界でトップを狙える位置にある夏子――日頃
から公私で"恋愛最強美女"を放言する彼女にとって、密かに"婚活を始めること" 自体が、耐えられない。

 何よりも今、婚活スクールに入会として事実によって、「特定の恋人がいない」ことが、歴然とわかってしまう。


 この最強恋愛美女である――このあたしに恋人がいない?

 これは、耐えられない。
 この屈辱には、とても耐えられない。

 そして、さらに耐えられないのが、この事実が、公になってしまうということだ 。

 並みの女なら、どうってことないかもしれないが、夏子の羞恥心では許せない。

 

 もっとも美肌の露出なら、いくらでも許せる。

 そもそも、出身地の世田谷区桜新町の実家から"肉体派美人女優"としてのキャリアをスタートさせた――あの時から、始まっていた。

 今の所属事務所――小田急下北沢駅前のニューライジング株式会社入り当初から始まっていた。

 並みの新人女優の神経なら、嫌がるはずのビキニ撮影を自らやりたがったのだった。

 

 それは、当時も今もとんでもないゲリラ撮影だった。

 数人の男性撮影スタッフを引き連れ、三軒茶屋二子玉川・恵比寿・目黒などの路上で、突然、コートを脱ぐ。

 

 その下は、むろん、美貌・爆乳・美筋・豊臀の女性美のかたまりだ。

 立入り禁止区域のはずの目黒のタワーマンション屋上に入り込み、そのままビキニ撮影に興じ、その場で思いついたポーズでカメラの前に立った。

五日間に亘る撮影日最後には、まず東京世田谷線の終点――三軒茶屋駅前の線路に立ちはだかり、五分ほど止めた。

最終カットでは、真昼の世田谷通りを10分近く止めてやった。 

 美肉美女――美筋美女――そして、何より、恋愛最強美女として、他の女がやらないことをやる!
 そんなことを平気な顔してやる女――それが、このあたしなのだ。

 

 そのあたしが、ついに婚活?

 そんなこと、あり得るの?

 しかし、それを認めるのは、新町夏子にとって、悔しい――たまらない悔しさを
伴う。


 女の自尊心が傷つく。

 不可視の血が流れるのだ。

 

 最強恋愛強者のこのあたしが、実は、「密かに婚活をしていた」なんて、バレた
らどうしょう?

 もし、熱心な男性ファンに知れたら、どうしよう?
 マスコミに露見したら、どうするの?

 そこが、たまらなく、気恥ずかしい。
 耐え難く、屈辱的だった。

 ああぁぁ……どうしよう?

 いつまでも思考と逡巡と焦りは、キャロットタワーの周囲を空転し続ける。

 むろん、その間にも時間は容赦なく過ぎてゆく。


既に世田谷線三軒茶屋駅前は、夕陽の陰りを帯びて始めている。

改めて、手持ちのスマホで美人婚活スクール株式会社 世田谷本社オフィスの公
式サイトを見てみた。

なんといっても、最も眼を惹くのは、ヘッドコピー。 

"わが社は、"20代独身美女専門の婚活スクール"です。
"大変、申し訳ございませんが、20代独身美人以外の女性の入会は、原則として、お受けできません。"

この二行だ。

 

夏子の高ぶる脳細胞を一条の閃光が貫いた。

この婚活スクールに入れるのは、美女しかいない。
裏返せば、ここに醜女は、一人もいない!

独身美女だけだ!

 

これは、たまらなくいい!

新町夏子の美しく豊満な肉体が、深奥からうずく最高の殺し文句だ。

 

夏子の高すぎる自尊心と肉体美レベルをたっぷりと充足させくれる。

万一、婚活の事実が、世間に露見しても、
男日照りの現実が、
お釣りがくるほどの美女のプライドを満足させてくれる。


やってやる!!!

 

一際、彫りの深い美貌と豊かな金髪が、世田谷区に落ちる夕陽を浴びて、凄愴さ
すら帯びた。

このあたしの美貌と肉体美を魅せつけ、必ず、女の幸福をつかんでやる!

そう決めると夏子は、その図太い二本の美脚をキャロットタワーの玄関口に向けた。



《ビジュアル・ノベル》

第2話 世田谷ビューティ 新町夏子、今日から肉体派美女の自尊心をすべて捨てます!《発進!》

へとつづく――。(ただいま、制作中…)